午前中には予報ハズレの雪が降って超寒かった昨日、「健康」2nd Albumのレコーディングが作業完了し、我々の音作り行程がクランクアップした。
今週は連休明けの火曜日から金曜日まで、4連チャンの追い込みスケジュールが組まれており、うち2日は会社を早退けして、Mix Down作業三昧だ。
Mix Downってのは要は、これまでドラムから順に重ね録りして来た演奏や歌を、ブーランが校長を務める、音響関係エンジニアを中心に養成する専門学校のスタジオの、レコーディングスタジオではもう30年来のデファクトスタンダードであるSolid State Logic社の4000シリーズというミキシングコンソールで、音質を調整し音量のバランスを取って、CDに収めたりダウンロードするためのステレオ2チャンネルの音源にまとめることだ。
曲によっては30トラックとかある--なにせドラムだけでもマイクを11本も立ててるのでね。スネアなんて上下2本立てる贅沢さだ--録音素材を、ブーランの学校のSSLは24チャンネルなので、まずパソコンのPro Toolsという、これもプロ用スタンダードのDAWソフト上で、バランスを取り基本的な音質の調整--イコライザーと呼ばれる、特定の周波数ごとに強調したり弱めたりするエフェクター(Pro Toolsには機能として内蔵されている)で行う--をして、ある程度まとめて、SSLのどのチャンネルに送るかを決めていく。
ドラムの場合は、11トラックあるものを、バスドラ、スネア、ハイハット、ライドシンバル、タム(2chステレオ)、オーバートップ(ドラムセット全体の音を、高い位置から2本のマイクで拾ったもの-2chステレオ)の8チャンネルにまとめる。
今回のレコーディングでは、Pro Toolsを活用し、この基本的な音質の設定を曲間で、コピーして基本音質を共通化したり、SSLに送るチャンネルをある程度同じにしたりできたので、前回のレコーディング--先週書いたとおり24トラックのアナログテープを使った--に比べたら、かなりシステマティックに進めることができた。これらの事前作業を、先々週の日曜日に全曲あらかじめやっておく、なんてことは、過去のレコーディングでは考えられない進化だ。
なので、今週は基本的には、SSL上で音質と音量の調整をしていく作業になった。手順としては、まずドラムの音から作る。というか上記の通り基本音質はできているので、曲調に合わせてこれを最終的にチューニングしていく。具体的には、ゲートと呼ばれる、ノイズをカットし音量の強弱をある程度一定化するエフェクターの調整、イコライザーによる周波数の調整、生音に少し遅らせた音を被せることで厚みを出すディレイや、音を響かせるリバーブと言った空間系のエフェクターの調整をし、ドラム8チャンネル間の音量のバランスを取ることだ。
そのために、Pro Toolsで、例えばタムならタムが鳴っている箇所を選び、何度も繰り返し流して、その間に各種のツマミをああでもないこうでもないといじっていく。一番大事なのはイコライザーの調整で、それぞれのピッチはもちろん、全体の音が鳴っていてもちゃんと聞こえるか--これを「音が立つ」と言う--とか、音のきれいさ、汚さは、ほとんどこれで決まってしまう。
ドラムで言うとバスドラの音を立てるのが特に重要で、もちろん音を大きくすれば聞こえはするんだけど、単に大きくしたんでは低音が強くなり全体にモワッとしてクラブミュージックみたいになってしまう。ベースにマスキング--一緒に鳴ることで音が聞こえにくくなること--されず、かつ大きくなりすぎず、ってのがなかなか難しいんですよね。
んで、ドラムの音作りが終わると、ベース、ギター、キーボードと同じ作業をしていく。この段階で、録音素材の一部を使わないことにしてミュートしたり、素材の中でも音量は一定ではないので、その調整をしたりもする。こうした素材の一部をいじる際は、単純なものなら最終音源を作る際にSSL上で手で操作することもあるけど、通常はPro Tools側に音量等の調整を記録して、音を出す時に自動的に修正されるようにする。
ボーカルとかギターソロなんかの場合は、一部だけディレイをかけたりリバーブをかけたりすることがあるが、これらはSSLに接続した外部エフェクターを使うので、その操作はSSL上で行う。曲によってはこれがかなり複雑な操作になり、音源に落とす前にリハーサル的な操作練習が必要になることもある。
「健康」の場合、ドラムの音はぼくが作るけど、それ以降の音作りは、各種エフェクターや楽器の特性に精通し、最もセンスがあると思われるみのりんが行う。なので最初にぼくが行かないと始まらない--後から行ってドラムの設定をいじると、なんだよ他のバランスも全部調整し直しじゃんかよ、とみの教授に叱られる--のだけど、それ以降は基本的には後ろで座って見ているだけだ。
ブーランはこの学校の一番偉い人だから、SSLのどこに何が繋がってるとか、スタジオの機材のどれをどう操作すればやろうとしてることができるかとか、そういうことはもちろん一番詳しいので、基本常時いてもらわないと困る。一方で今週も4日中2日しか来なかったマキゾエは、「ぼくは耳が悪いから」と、文句も言わないが基本的に全く何もしない。来た日もついにコンソールには一切触らなかった。
その代わり、もちろん「健康」の曲はほとんど彼が作っているし、広告代理店のクリエーターという仕事柄、CDジャケットを作ったり各種登録とか権利関係とかはやってくれるので、まぁうまく分担できてるバンドなんだろうね。
これらのMix Downを4日間で7曲、基本1日2曲ペースでやっていき、遅い日は終電になったんだけど、その間に一部録り忘れていた素材を追加録音したりもした。「だいじょぶデス」のCall&Responseの、ライブだとお客さんに声を出してもらうところは、学生を何人か呼んできて、3回重ね録り。なかなか楽しい仕上がりになった。
先週書いた、ある曲のパーカッションだけ合わなかった問題は、家から持っていった音源を流し込んでみたら、あっさり解決した。同じ音源だったはずなんだけど、何だったんだろう?
出来上がった曲たちは、今日ブーランがGoogle Driveで共有してくれたんで、改めて聴いてみたけど、一部細かいとこは詰めきれなかった感はあるものの、全体に悪くはないんじゃない?あとはマスタリングして、CDに焼いて、ジャケットとか歌詞カードとか作って--ちなみにMix Down作業の合間に、ジャケ用の写真も撮ったりした。収録曲順も、アルバムタイトルも、FB上で議論して決まっている--、3月21日のライブまでになんとか間に合わせるぞ。
これも先週書いた、この学校の卒業生で韓国No1マスタリング・エンジニアであるジョン・フン氏は、「先生(ブーランのこと)が来られるなら、それ以上の優先スケジュールなんてありません」と泣かせることを言ってくれていて、今月末にブーランが韓国に行って、マスタリングの仕上がりを見てくることになった。
今の音源はまだ音圧調整とかしてないので、他のCDとかと比べるとかなり小さな音に聴こえるんだけど、これがジョン・フン氏の手にかかると、魔法のようにそれぞれのパーツが立って、しっかりした音になってくるんだよね。渡すものは2チャンネルにミックスした音なので、パーツ間の調整はできないはずなんだけど、不思議だよねぇ。
てことで、レコーディング作業いったん完了です。今回、勉強がてら課外授業としてレコーディングを手伝ってくれた学生たちに感謝。特に最初から最後まで付き合ってディレクター、オペレーターをこなし、その間いろいろ経験して、ぼくらが見ていても成長感があった1年生女子Mちゃん、君は文句なしに今回のMVPだと思うぞ。
今日はランニングついでに、提出期間初日の確定申告書類を、時間外ポストに突っ込んできた。朝霞税務署は、歩いても4分ほど、走れば2分位の場所にあるので、こういう時は郵送したりしなくてよくて便利。
ちなみに今日を始め、当分のランニングのお供の音楽は、「健康」2ndアルバムになりそうです。どの曲も、曲自体はもうとっくに聴き飽きて--というか演り飽きて--るんだけどね。
SSLは40chなんだけど、ProToolsのインターフェースが24chのin/outしかないからSSLでミックスする場合は、PTのアウトを24ch以内にまとめる必要があるのね。
最近のセッションは大抵、卓に戻さず、PT上でミックスしてしまうから実際に24ch分のインターフェースを使うことなんて滅多にないんだけど、「健康」はある意味、従来型の「正しい」ミックスダウンをしているわけよ。
投稿情報: ブーラン | 2019/02/17 13:56
なるほどぉ。そういうことだったのね。校長、解説ありがとうございます。
投稿情報: tacovo | 2019/02/17 17:10