3日目の宿、前回書いた「中津渓谷 ゆの森」は、けっこう深い山中の渓谷脇にあるのに、なかなかおしゃれな宿で、コテージ3棟以外の本館の部屋は和室のみなんだけど、食事はフレンチのフルコースが選べるし、我々のような年寄りに嬉しい、1品少なくしてその分少しお安くしてくれるサービスもある。渓谷が目の前で眺めもよく、また渓谷側の桜の木が満開で、その花吹雪が部屋やレストランの窓から見えるのがなかなかに風流だ。
4日目はこの宿を後にし、前回書いた「酷道」--といってもこの辺りは対面2車線でカーブもきつくなくとても走りやすい--439号を東へ向かって、途中県道に折れ、この道もなかなかのワインディングなのだけど、30分ほど走って、安居渓谷という場所に来た。
町の名前にもなっている仁淀川(によどがわ)の支流安居川が作るこの渓谷は、流れる水の透明度では実は四万十川よりはるかに水準が高く、この渓谷にできる淵の色の美しさが、「仁淀ブルー」と言われて近年注目されつつあるらしい。しかし今回の旅はなにかと水と関わりが深かったな。
まず渓谷の入り口に「みかえりの滝」というのがあって、これは車を止めて見返ると道路からでも見える小規模なもの。ちょっと進んでレストハウスに車を停め、10分ほど歩くと見られる「飛龍の滝」は、落差30mほどの2段滝。そして更にもう少し進んだところの駐車場から5分ほど歩くと、エリア随一の「仁淀ブルー」スポットと言われる「水晶淵」に着く。
実はこの「水晶淵」、駐車場に「水晶淵駐車場」って書いてあるだけで、どこがその淵なのかは案内がないのでよくわからない。だけど川沿いの遊歩道を一番奥まで歩いた突き当りに、砂防ダムがあるんだけど、そこの直下のちょっとした深さのある場所が、もう本当にきれいな色なのよ。どうよこの写真。
季節や時間帯や見る角度によっても、青や緑に色を変えるというこの淵、この日も天気はよく、風がなければ青緑の水底が見え、風でさざ波が立つと水面に反射する光がいろんな色を帯びる。奥に人工建造物があるのが残念なんだけど、この淵は、見ているとまさに吸い込まれそうになる。ここは来る価値あったなぁ。
安居渓谷を後にし、次に向かったのが、今回の「道がらみ」事件その2、こっちのほうが前回のその1よりも大事件になった、高知・愛媛県境の絶景林道である、正式名称「町道瓶ヶ森線」、通称「UFOライン」だ。カローラスポーツの1つ前のCMで、菅田将暉と中条あやみが「風になりたい」を歌いながらドライブしていた、あの山上のスカイラインね。
途中おにぎりでも買おうと思ってたコンビニが潰れてて嫌な予感はしたんだよね。西日本最高峰石槌山の手前まで行くので、これまた超うねうねの細道を延々と登っていって、やっと頂上の「よさこい峠」に着いたと思ったら・・・
が~~~ん!なんとこのUFOライン、4月中旬までは通行止めなんだって。うっそー。なんで事前に調べた時わからなかったんだろう?いま検索したら確かに、「11月末~4月中旬までは冬季閉鎖」って書いてあるじゃん。だけどいくら山の上だからってMAXでも標高1,700mくらいだし、四国でそんなに雪が降るなんて思わないよねぇ。地元の人でもここまで上がって来ちゃって、ショックを受けている車が結構何台もあった。
なんだよー。この旅の目的の3番目くらいだったこのUFOラインが、また我が家の宿題になっちゃったじゃないか!古くは22年前、荒天で船が出なかった北海道然別湖のナキウサギに始まり、宿題は溜まっていく一方なので、おそらくもう来られないだろうに。
だがそこは転んでもただでは起きない我々夫婦、よし、そんならと車を停めて、なるべく絶景に近づいてやろうと、ゲート柵の横を抜け、UFOラインをてくてく歩いてみた。3kmほど入った「シラサ峠」ってとこまでは行ってみたんだけど、石槌山や、このUFOラインがすぐ横を走り抜ける「瓶ヶ森」--この山の途中まで登るハイキングコースを行く予定だった--の景色はきれいなものの、下界の視界が広がる場所までは到達できず、残念ながら引き返す。
この日の高知内陸部は山に登る前は気温25度とかあって、ここUFOラインも雪なんて道路脇の土手の最下部に、ちょこちょこっと残ってただけなのにぃ。うーむ、こういうところがピークシーズンを外して旅に出るデメリットだな。
しょうがないのでもと来たうねうね道を戻り、また439号に出て、さらに東へ向かう。吉野川最大のダムがある早明浦(さめうら)を過ぎ、高知から香川へ向かう高知自動車道をくぐって、吉野川上流の名勝「大歩危(おおぼけ)」はスルーし、ちょっとした峠道を登って降りたところが、この日の宿「祖谷渓(いやけい)温泉 ホテル秘境の湯」だ。
ここはかなりでかい宿だった。7階建ての本館に隣接して、その6階が1階に当たる、さらに7階建ての新館があり、温泉棟は新館からは本館を挟んだ反対側の1Fなので、新館最上階の部屋だった我々は、温泉に行くのがかなり大変。まぁでも、もともとは古い宿だったみたいだけど、建物はきれいだったし、旅館メシではあるもののそんなに古臭い感じではないし、自販機とかの設備は整ってるし、温泉は広くて泡ジェットとかいろんなバリエーションがあり、値段は今回の宿の中では土曜ってのもあって一番高かったけど、まぁ納得できなくはなかったな。
そしてとうとう最後の日になっちまった5日目。この祖谷(いや)というのは、壇ノ浦の戦いで破れた平氏の残党が、その奥地に隠れ住んだと言われる場所で、特にここを流れる吉野川の支流、祖谷川を遡って行くと、急峻な山の斜面に点々と家が立つ重要伝統的建造物群保存地区「落合集落」なんかがあって、「日本三大秘境」と言われる。この祖谷川上流に沿ってうねうね登っていく国道が、また例の439号だってのが笑える。
その奥地までは今回は行かなかったけど、その入り口に、平氏の残党が架けたと言われ、今は中に金属ワイヤーが入ってるけど、もともとはカズラという木の弦だけで組んだ「祖谷のかずら橋」っていうなかなか味のある吊橋があるので行ってみた。
この祖谷も、次に行った美馬の「うだつの町並み」も、いずれも昨年亡くなった内田康夫氏の「浅見光彦シリーズ」--TVドラマ特番として2局が扱っている珍しいシリーズだが、原作の小説も日本全国への旅情をかき立てなかなかよい。114作もあるので、読みたい本に困った時に便利(失礼ですが)で、ちょっとずつ読んでいる--の1冊、「藍色回廊殺人事件」に出てきて、行ってみたいなぁと思ってた場所なんだけど、浅見光彦は高所恐怖症のため、このかずら橋を渡るのがすごく嫌だった、と書かれていた。
確かに、安全に配慮して3年に1度かけ替えるそうだけど、床板がすのこ状になっていて遥か下の川面が見える上にかなり揺れるので、両側のカズラの弦の手すりに掴まらずに渡るには、相当の勇気がいる。でも維持コストがかかるのはわかるが、渡るのに550円ってのはちょいと高くないかい?
それからお土産屋さんをちょっとひやかし、玄関に飾る用の、地元の老人が編んだというカズラの置物を買って、祖谷川を下流の祖谷渓の方向へ戻る。途中、「ひの字渓谷」と呼ばれる、道路から見ると200mくらい標高差がある場所をU字型に川が流れる雄大な眺めがあったり、小便小僧が渓谷に向かって立っていたりする。この小便小僧は日本にあるものとしては有名らしく、Wikipediaにも写真とともに2番めに紹介されている。
そして、高校野球で有名な池田町で、もはやかなりの大河になっている吉野川を渡り、高速に乗って、美馬市脇町に向かう。「楽庵」という店で、ご主人の出身地兵庫県出石(いずし)の名物「皿そば」を食べ、そのまま「うだつの町並み」を歩いてみる。
「うだつ」とは、日本家屋の2Fの道路側に掛けられた短い瓦屋根の両端に、道路と垂直になる方向で設えられた防火用の袖壁のことで、江戸時代後期にこの地方でいくつか大火があって以降、商家がこぞって作るようになったらしい。この「うだつ」を設置できるような経済的余裕があるかどうかということが、「うだつが上がらない」という慣用句の語源の1つだと言われている。
実際に歩いてみると、祖谷の落合集落に先立って重要伝統的建造物群保存地区に指定されたのは1988年末だというから、古くから意図的に保存されていたわけではないだろうに、江戸時代~昭和初期に建てられた木造建築の町並みが、ほぼそのまんま残っている。今は廃業しているが、実際に文房具屋等の店舗だったであろうショーケースや、ボンカレーの看板とかが、ノスタルジーを誘う(冒頭の写真です)。
観光客向けに土産物を売っている家もいくつかあるが、観光地として俗化した感じはあまりない。なにせこの町は、それぞれの生業は不明だけど、基本的には今でも人が住んでいるからね。カミさんはそれらの家の中でもっとも大きく、内部を有料で観覧できるようにしている、この地方の名産藍染めの、かつての豪商「吉田家」で、手拭きタオルを買った。すぐ裏の吉野川の堤防に登ってみると、まだ中流と言える地域なのに、すごい川幅と流量。さすが日本三大暴れ川だ。
それからまた高速に乗って、最後に向かったのは、徳島市の南郊にあり、市を一望に見下ろすことができる「眉山」だ。さだまさしが同名の小説を書き、その後映画化・TVドラマ化もされたこの山は、カミさんの両親の故郷である福井市の足羽(あすわ)山みたいなものかと思っていたら、それよりは遥かに標高が高く300m弱あり、車で登れるがそこそこ時間がかかるし、ロープウェイも掛けられている。
登ってみるとかなり遠くまで見渡せ、この日はちょっと霞んでいて大鳴門橋は見えなかったが、これは絶景だ。1ヶ月くらい前の「ブラタモリ」でやっていた通り、徳島という町が水郷都市だということがよくわかる。海外からの観光客も多いようだったが、今回ぼくらは市街を観る時間はなかったけど、ここは確かに、まず徳島市の全貌を知る意味で来ておいたほうがいい場所だね。
山を降りて空港近くのガソリンスタンドでガソリン--正確にはディーゼルなので軽油。事前にgogo.gsというサイトで調べておいたんだけど、日本最安レベルと言われるウチの地元よりここは安かった--を満タンに入れ、高知龍馬空港同様、観光用名称の「徳島阿波おどり空港」そばのタイムズレンタカーに車を返して、空港まで送ってもらった。
まだ時間が早かったけど徳島ラーメンの夕食にし、今回はいろいろ対策しただけあって、なぜか帰りの飛行機でいつもカミさんが起こす頭痛もなく、羽田に帰ってきて、山手線で爆睡しつつ、22時ちょい前には家に帰って来た。
今回は旅のさ中にぼくが風邪をひいてしまって、軽かったし土佐清水で薬を買ったので大きな問題にはならかったものの、1週間経ってもまだ完全には咳が止まらない。体調管理には気をつけなきゃいかんね。
てことでホントに長くなってすみません。高知・徳島旅行、以上です。
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