新型コロナウィルスについては、あんまり毎週書いても仕方ないのだけど、我が家でも実家の2世帯住宅の片割れに住む兄が、みんなで墓参り&ランチに行こうかと言っていたのを、うちのカミさんが、今週92歳を迎えた親父と89歳のオフクロに、我々が万一ウィルスを持っていてうつしてしまったら、と言うので、参加は取り止めにした。
カミさんの実家は心配性の傾向があり、ウチの実家は楽天的なので、時々こういうことになるのだけど、そのウチの実家でさえ、兄が危険だから行くなと言って両親を止めたのが、今週水曜日にぼくとカミさんで行って来た「倉本聰 点描画とやすらぎの刻展」だ。
本来なら明後日に予定されていた「健康」ライブも、やっぱとてもできる状況じゃなかったね。延期先はオリンピック期間中の7月26日に決まったけど、その時期でも大丈夫なんだろうか?オリンピックすら怪しくなってきてるのでね。
何度か書いてるけど倉本聰は親父の実弟で、ぼくにとっては叔父にあたり、本名の苗字はぼくと同じだ。今回銀座松屋8Fイベントスクエアで行われたこの展覧会も、実家に招待チケットが届いたのを、オフクロが我が家に転送してくれたので、申し訳ないけどタダで観ることができた。
倉本叔父が絵を描いていると言うこと自体、ぼくは今回初めて知ったんだけど、もともとは十何年か前に、今はもう閉じてしまった演劇マン養成私塾「富良野塾」の、公演のための絵コンテを書いたところから始まったらしい。
今回は1年の長丁場が今月で終わるテレ朝の昼ドラ「やすらぎの刻~道」と絡めて、テレ朝が主催した展覧会となったが、これまでも全国の何ヶ所かで、サブタイトルは様々ながら、「倉本聰の点描画展」として開かれてきたようだ。
18:30現地待ち合わせにカミさんが10分弱遅刻してきたんだけど、サイト上では20時までとなっていたのが、このご時世、松屋自体の営業時間も短縮してるってことで、週末以外は19時までで終わっちゃうと言われ、七十数点の点描画をかなり慌てて観ることになった。
実際に観たその点描画は、思いのほか、と言っては失礼かもしれないけども、素晴らしいものだった。基本的に富良野の森や木の風景の中に、鹿やクマやリスなどの動物が息づいている様子が、点描でものすごく緻密に丁寧に描かれている。(Googleで「倉本聰点描画」で画像検索するといくつか観ることができます。著作権上問題があるのもあるようですが。)
季節ごとの展示になってるんだけど、冬に始まって、春夏秋と来て、途中放射能汚染された福島の森の連作を挟み、最後にまた冬で終わる。基本的にモノトーンの静謐な絵の中に、ところどころ緑や青や赤やオレンジが鮮やかに使われている。
またそれぞれの絵には、ほぼ全てにちょっとした言葉が直筆で添えられていて、例えば「フクロウと老木」という絵には、
木 フクロウに曰く / いいなァ あんたは何処へでも飛べて
フクロウ 答えて曰く / いいなァ あんたは動かなくてよくて
動けるものと / じっと立つものと / 果たして / どっちが倖せなんだろう
あるいは「老木」と言う絵には、
戦前はあなた よござんしたよ / 人は少なかったし 電気なンてなかったし
エッ!? / 何あんた 眠呆けてンの!
戦争って云ったら / 応仁の乱に決まってるでしょうがッ!!
いろんなトーンで、人生を考えさせるものからユーモラスなものまでいろいろあって、ファンの間ではこの言葉がいい、と言うので、写真は撮れないため、これらを必死にメモる人も多いらしい。
最近は本業では「やすらぎの刻」シリーズ以外は書いていないし、それほどサイズの大きいものはなくて四つ切~三々サイズ(おおむねA4~A3強)だとは言え、十数年で1,000点以上になると言うこれらの絵を、これだけ緻密に描いてきたと言うのはすごいなぁ。創作意欲ってことでは、脚本も絵も同じなんだろうね。
絵の展示が終わったところに、「やすらぎの刻~道」のコーナーがあって、ドラマに登場するセットの一部とか小道具、衣装、脚本にまとめるまでのプロットからの作り方とか、登場人物の生い立ちからいつどんなことをしてきたか--例えば「やすらぎの刻~道」の登場人物、石坂浩二演じる脚本家菊村栄であれば、いつなんという作品を書いて、どんな賞を受賞したとか--の設計図とかが展示されている。
こういうのを本当に細かく設計して脚本を書いているということは、ぼくはこれまでの叔父の著作物とかを読んで知っていたけど、知らなかった人には新鮮だろうなぁ。
会場を出たところに売店コーナーがあり、この展覧会に来れなかった両親に見せるために、今回展示された絵が1枚ごとに見開きですべて掲載された、少し上質のプログラム本と、カミさんが収集を趣味にしている絵葉書数枚を買う。
今回展示されたもの及び一部展示されていなかったものも含めて、11点の絵を、高品質な「ジークレー複製画」として額装して、2~3万円ほどで売ってるんだけど、両親が、ウチの息子の家がつい最近竣工し、そのお祝いに贈ってあげることにしたいってんで、その売ってるやつの写真を、スマホで1枚1枚撮る。
それから松屋を出て、もう10年以上ぶりですっかりわからなくなってしまった銀座の、中央通りを渡って1本裏の道にある、「煉瓦亭」という洋食屋さんに飛び込みで入る。
知らなかったんだけど、ここって明治28年創業の老舗で、豚カツ、オムライス、カキフライ、エビフライ、ハヤシライスの発祥の地と言われ、食べログでも3.75点という高得点の店なのね。「元祖ロースカツ」と「元祖ハヤシライス」をカミさんと2人で食べたけど、ハヤシライスは濃厚デミグラスソースにちゃんと肉の塊が入り、ロースカツはものすごく懐かしい味がした。美味かった。
そして有楽町線での帰り道になる護国寺の実家に行って、息子にどの絵を贈るのか打合せする。カミさんはウィルスをうつしたくないと、最初は玄関から上がらず、上がった後も距離を置いて立つと言う用心ぶりだ。
叔父の養女であるYちゃんから送られてきた複製画の情報が、どうもよくわからんと親父が言っていたのを、どういうことかと確認し、結局息子自身に選ばせようと言うことになって、ぼくが撮ってきた写真を帰ってから息子に送った。
息子のいる茨城県でもついに1人、初めての感染者が出てしまったようだけど、こういう時期だからこそ、こういう展覧会に行って、心をスーッとさせるのはいいことだよね。年老いた両親には悪いけども、多少なりとも体力はある我々の特権だ。実家に置いてきたプログラム本、代わりに観て、展覧会に行った気分になってね。
ちなみにこの展覧会は、4月1日までやってますのでね。みなさんもよろしければ、ウィルス対策を万全にした上で、観に行ってくださいませね。
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