リタイアして3回目の1人旅は、これまでのような「行ってみたかったけど行ったことがなかった名所やゆかりの地巡り」ではなく、これまで家族やカミさんと何度も足を運んだ高原に行ってきた。なにせ平地があまりにも暑いのでね。急遽予約を入れまして。平日だからこそなせる業ですな。
関東から行きやすい「ザ・高原」と言うと、やはりトップ1は美ヶ原なのだけど、その一番奥にあるこれまで何度もお世話になっている「王が頭ホテル」は近ごろ高級化と共に人気でね。平日でも取れやしない。手前の山本小屋は温泉があるのはよいのだがいまだに昔ながらの山小屋だし。
ならば美ヶ原の標高2,000mには及ばないものの、その手前、車山~霧ヶ峰あたりも、1,500~1,800mほどはあるから地上よりも気温は10度程度低いし、ってのでそのあたりで探して、温泉宿はないか、あっても和室だけみたいな所しかなかったため、久々に車山の、ホスピタリティの高そうなペンションを予約してみた。
だけど夏休みとは言えせっかくの平日に1人で行くのだから、ということで危ないことの嫌いなカミさんとなら絶対にやらない、あるいは休日にはうまく取れなくてなかなかできそうもないことをやりたいよね。で、ずっとやってみたくてやれてなかったことと言えば・・・そうだあれだ!ってんで予約を入れた今回の目玉イベントが、パラグライダーのタンデムフライトだ。これを最初の日のド頭に入れてみた。本来楽しみは後に取っておくタイプなんだけどね。旅程の都合上。
出かける前の晩、あまりよく寝られず、少し頭がボーっとしていたのだが、朝9時前に家を出て、圏央道から中央道に入り諏訪南インターから5分ほど走って、集合時間の12:20よりは20分ほど早く、パラグライダー体験フライトのある富士見パノラマリゾートのパラグライダースクールの建物に着いた。
ここは南アルプス北端の入笠(にゅうかさ)山の北東側に設えられたスキー場で、コースは少ないが標高差が大きくコースの距離は長くて、ゴンドラが設置されている。まずは自分が乗る分の装備を担いで、インストラクターと共にこのゴンドラに乗り山頂駅まで登る。その間簡単に説明を受ける。ちなみに体験フライトの時間は朝昼2回あるが、この日の昼の部に飛ぶのはぼくだけだったようだ。朝の方が空気が澄んでいて景色がいいってことでね。
山頂駅から少し降りた結構な急斜面に、インストラクターが機材を広げ、彼が乗る部分とぼくが乗る部分をハーネスで接続して、さあ走って下さい、と。こっちの方向でいいのか、と確認し、思い切り走り出すと、ものの3秒くらいで体が浮いた。浮いた感じがしても止まらないように言われていたので足をバタバタしていたが、もういいですよと。
そしてあっという間に空に飛び出すと、うっわー、こりゃすごい。眠気なんて一気に吹っ飛ぶ。八ヶ岳からその向こうに富士山まで見える遠景と、下を見るともう地上は遥か遠くにある。この、動力音なしに風を感じて空を飛ぶ、ってことが夢だったのよね。動力音がない状態で飛べるものとしてはグライダー、パラグライダー、ハンググライダーがあるが、グライダーは機体の中のうえ、体験フライトができるところはいま多分ないし、ハンググライダーは座れない。パラグライダーが唯一、要件を満たしてくれる。
インストラクターが操縦を誤ったら落ちる危険はあるが、乗っていてもそういう不安はほぼなく、高所で感じる下腹がスースーするような感覚もない。いやいや、これはサイコーですわ。この富士見パノラマリゾートのパラグライダー体験は、高低差が800mほどもあり、フライト時間も長い。恐らく20分くらい空中散歩をして、降りる時に少し足に衝撃があったが、よほどヘタをしないかぎり足をくじくほどではなく、普通に立って着地できた。
着地地点まで車で迎えに来てくれて、元のスクールの建物に戻り、機材を返しておしまい。17,000円とちょっとお金はかかるが、これは一度は体験して損はないね。自分で飛べるライセンスを取ろうと思ったら、1週間くらいの地上訓練に加え、100本くらいのテストフライトをしないといけないそうなので、なかなか取れるもんじゃないし。
それからこのスキー場の山麓レストランで天ぷらそばを食べ、中央道で言うと1つ手前の小淵沢インターのそばにある富士見高原の「中村キース・へリング美術館」に行く。ここは中村和男氏という製薬会社の方が2007年に設立した私設博物館で、この辺には25年ほど前に、前の会社の部署で行きつけのペンションがあってよく来ていたのだが、その頃には確かになかったね。
ぼくは絵画でもミロとかクレーとかが好きなのだが、こういう80年代アメリカのストリートアートも好物でね。ここは個人コレクションだけにそれほど膨大な作品が展示されているわけではないが、なかなか見応えがあり、へリングが名前を知られる前後にどんなことを行っていたか、また彼が行った子供たちとのワークショップなどを初めとするいろんな社会活動なんかがよくわかる。スマホでなら写真撮影も可、というのもありがたい。
出口の売店で、Tシャツとポーチ、カミさんへのお土産にポストカードを何枚か買い、予定より40分ほど早かったが、ここから車で1時間ほどの車山のペンション、「ベストフレンド」に向かう。この日は女子ワールドカップのスペイン戦があったのでね。16時の試合開始に間に合うようにってことで。
しかしこの車山高原は涼しい。この日も含め結局3日とも夕立になり、東京でも天気が荒れたと言う2日目はものすごい雷雨になったが、初日の外気温は22度ほど、室内は25度を切るくらいで、とても快適だ。これでも近ごろはこの高原も気温が上がったというが、2日目なんて外気温18度ほど、室内も22度台、半袖半ズボンでは寒いくらいで、これぞ高原、来た甲斐があると言うものだ。
2日目は朝9時にペンションを出て、まず車で10分程の霧ヶ峰交差点の駐車場に向かう。ここでまず、「忘れじの丘」という高台にあるグライダー滑走路や、その先にあるグライダー館を回る。この時間帯は少し雲が多く、グライダーの発進を間近で見ることはできなかったが、この後天気がよくなり、結構何機も飛んでいたようだ。
10時29分のバスで元来た車山高原に戻り、ここからリフトに乗って車山山頂に向かう。いやいや、何度も来ているが相変わらず素晴らしい絶景だ。ここからハイキングスタート。まず急坂をリフトで登って来た方へ下り、左に曲がって、「車山乗越」という小さな峠を越えて、また左折、この付近で3つある湿原の1つ、「車山湿原」の木道を歩いて行く。
3つのうち一番有名かつ面積も広いのは「八島湿原」で、ここには過去2度行っており、高層湿原マニアとしては残りの2つをコンプリートしとこう、ってのがあってね。ただこの「車山湿原」は、あまり湿原らしい風情はなく、窪地はあるが池のようなもの、というかそもそも基本的に水が見えない。
この時点で空はほとんどピーカンで、高原の気温とは言え直射日光がかなりキツく、たいして歩いてないのに一休みしたくなってきたところで、「車山肩」というポイントに着き、ここにある「コロボックルヒュッテ」という老舗の山小屋で昼食にする。ここのボルシチとパンのセットがかなり評価が高くてね。大きなウッドデッキの軒下部分に設えられた席でいただいたが、確かにこれは美味だ。
それから霧ヶ峰までハイキングコースを歩いて行くが、この辺の道って湿原の木道以外は、こぶし大の石がごろごろ転がっていて歩きにくいのよね。このあたりはニッコウキスゲの名所なのだが、2週間ほど時期が遅かったのかな。咲いているのを見ることはなかった。
ここではさっきのグライダー滑走路を上から眺められ、ちょっと遠目だったが、飛び立つところや飛んでいる姿をいくつか見ることができた。着陸に向かう1機が、風に機種を右に振られながら降りていくのも見たが、怖いだろうなぁあれは。グライダーって翼にはタイヤがついてないからね。傾いたらアウトらしい。
13時過ぎに車を停めた駐車場まで戻って来て、車で5分ほど下り、今度は3つ目の湿原である「踊場湿原」に行く。ここを70分ほどで1周できるハイキングコースがあるって言うのでね。1台も車が停まっていない小さな駐車場に車を停め、コースに入っていく。途中きれいな森の中を行ったり、清流を木橋で渡ったり、湿地帯を木道で歩くようなところはなかったが、ここは池が見えているので、湿原らしさはあったかな。
このコースの終盤で、しばらく前からゴロゴロと遠雷が聞こえていたのが、ついにポツポツと雨が落ちてきた。さして濡れずに車にたどり着くことができてラッキーだったが、汗と雨で濡れてしまったので、この日はここから白樺湖畔にある立ち寄り温泉「すずらんの湯」に直行した。
てとこで既に長くなってるので、やっぱこの記事、2回に分けることにしますね。
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