自分が言った言葉とか、言われた言葉とか、とにかく忘れない言葉ってあるよね。忘れないって言うか、何度でも言ったか言われたか、その場面を思い出せる言葉って。これって、自分だけの言葉じゃなくって、誰かとの関係の中での言葉だよね。だから言葉って言うより、その人とだけの共通の「理解」になってたりするよね。レアなケースだけども。
Aikoが紅白に出た時に、義父が「なんであんなジーパンにTシャツみたいな恰好して出てくるんだ?(一世一代の舞台に的なニュアンス)」って怒ったので、--義父は今まで一度も書かなかったかも知れないけど、かつて『花いちもんめ』という作品で日本アカデミー賞最優秀作品賞を取った映画監督で、比較的有名なところでは、『白蛇抄』とか『誘拐報道』とかを撮った伊藤俊也という人なんだけども--その同じショービジネスの世界にいる巨匠に向かって、今思えば生意気にも、
「いや、あのファッションも含めて、彼女のスタイルなんじゃないんですか?」なんて意見してしまった。その中には、『紅白が楽曲系ショービジネス最大の舞台だなんて感覚、古いですよ』という、一種上から目線がある、不遜な意見だ。
それが確かもう7,8年前の話だったと思うんだけど、去年やっぱり紅白を、毎年恒例になっている年越しそば(福井名物のおろしそば)を食べた流れで、遅くまでカミさんの実家にいて、見るともなしに義父と一緒に観てたら、義父が突然、「この格好はヒドいよ。これはスタイルとは言えないよねぇ」、と言った。どうやらぼくが言いすぎたかもしれないと思って忘れられないでいたこの言葉を、彼もちゃんと覚えていたようだ。
つまりこの巨匠にした暴言が、彼にもどう思われているかは別として、ちゃんと憶えているほど印象的な事件であったことは間違いないんだな、と。それはつまり、暗黙のうちながらぼくと義父との間にあった共通の「理解」というか、義父としても、そうかもしれない、この素人の生意気な義息の言うことも一理あるかもしれない、と思ってくれていた一言であったのだな、と。
もちろん恥ずかしながらカミさんとのそういう場面だってある。もう23年も連れ添ってるんだから、必然的にそういうのの数が多い。でも同じ場面に対する2人の記憶が全然違ってたり、お互いお互いには残っていないことを妙に憶えていたりして、いろんなパターンがある。
というか娘も含めて3人とか、息子も含めて4人とか、そういう思い出の場面っていうのがある。というか家族ってやつは、そういうのがあるから家族なのかもしれない。ってなんだか家族っていいねみたいな話になっちゃたけど、話を戻しますとですね...
そういう家族4人が、同じような印象で同じ内容で記憶している事件っていうのは、やっぱりその家族にとって大きな事件なんだよね。
ウチで言うと例えば、大晦日にスキーに行った帰り--そのスキーがまたいろいろトラブルフルなスキーで、チェーンが切れて親切なスキー場の職員にわざわざチェーンを買いに行ってもらったりとか、リフト券代りのICカードを息子が無くしたのを、たぶんこの辺だと言っていたあたりを再度滑ってきて探して、カミさんが奇跡的に見つけたりとか--に、
東京が大雪で本庄児玉インターから先の関越が通行止めで、それを知らずに突っ込んで行ったら、高崎から本庄児玉まで約8時間ほどかかって、車の中で年を越し、カミさんが路上を走って上里SAの売店まで晩飯を買いに行ったら、ほとんど売り切れでお菓子みたいなものしか食べ物がなかったり、結局下の道を走って家に着いたのが朝の5時頃だったっていう事件が5,6年前にあったんだけど、この事件はさすがに、家族4人の記憶のイメージが一致している。
まぁでも、クサいけど、そうやって思い出を共有しているつながりって言うのは、結構大きなことで、やっぱりそれが夫婦だったり家族だったりするのだよね。いや別にいい話でまとめるつもりもないのだけど、わりと素直にそう思ったりするのですよ。だからそういうものが積み重なってきちゃうと、絆が深まって行って、ちょっとやそっとの障害ではそれを壊すなんてありえなくなっていくんだよね。
うーん、深い・・・よね?これ。
うーん。深い。
昔、ウチの心の書庫に「ショーニン」って記事を書いたんですが。
映画「Shall we dance?」のセリフで奥さんが
「人が結婚するのは、自分の人生にショーニンが欲しいからだわ」
って言うのね。
私は「承認」なのかと一瞬思ったんだけど
そうでなくて「証人」なのよね。
どんな人生をどうあるったのか一緒に見ていてくれる人。
人生に登場してくれる人。
その結果、重なってゆく記憶。
たくさん重なれば重なるほど、簡単には壊れなくなる。
うーーん。味わい深い。
あと、大御所さんって、ストレートに言ってくれる義理の息子さんは
普通に嬉しいだろうと思ったです。
投稿情報: isshy | 2008/09/07 00:41
今日はその大御所さんに呼び出されて、いつものように
パソコンのサポートセンターをやりました。
見るとマウスが壊れているらしく、実家と同じ方向にバレエの
練習に行った娘を迎えに行きがてら、新しいマウスを買って
帰りに再び寄って届けてあげました。
まぁそういう普通の義父でございます。「証人」と言えばそう、
重要な「証人」の一人ですね。
投稿情報: Tacovo | 2008/09/07 22:10