やっぱ森はいいよね。しかも今回は、ほぼ原生林に近い、日本でも有数の森だからね。その効果だと思うんだけど、今週1週間はなんだかずっと気分がよかった。頭は都会の利便性を求めても、体は太古、自然とともに生きていた時代の記憶を留めているんだなと思うよね。
てことで、屋久島旅行の後半は、悪天候で予定を入れ替えたおかげで、森林浴三昧の素晴らしい2日間となった。
3日目は前日に続いて8時に迎えに来てくれたガイドS氏の車に乗って、島の北側、「白谷雲水峡」にトレッキングに出かけた。屋久島の自然の中を、多くがガイドをつけて行くトレッキングコースは、ホントの山登ラーが行く九州最高峰、宮之浦岳への登山コースとかを除くと、大きく2つあって、その1つが有名な「縄文杉」に行くコース、もう1つがこの「白谷雲水峡」だ。
屋久島に行くなら「縄文杉」を見なきゃ、って向きも多いんだけども、「縄文杉」に行くコースって、朝5時前後に宿を出て、往復10時間ひたすら歩く、しかもその多くが元トロッコが走っていた線路跡の道だってので、きついし、飽きそうだし、大スペクタクルもないし、カミさんの体力も忖度してパスすることにした。
ガイドのS氏も、1度は行っといた方がいいと思うけど、リピーターが多いのはこの「白谷雲水峡」の方だと。カミさんも、50代の体力なら全然大丈夫ですよ、と言われ、周りの人何人かに「縄文杉」行くの?って訊かれたこともあり、一時はいずれまた来て行こうよ、と言う気分になったようだけど、ホテルに帰ってきて冷静に考え、やっぱしんどいかぁ、ということになった。
屋久島メインの港、宮之浦港のそばで左折するとあっという間に山に入り、2車線のきれいな道をぐんぐん登っていく。標高600mほどの入口駐車場に着き、トイレに行って、森林環境整備協力金@500円を払って、いよいよ出発だ。
しばらく石畳とかで整備された道を進み、吊り橋を3つほど渡ると、山道に入る。ここの森は、さっき原生林に近い、って書いたけど、薩摩藩時代に藩収稼ぎのために杉が結構伐採されている。でも現代の計画的な材木伐採用&杉の植生とは違って、自然な森から大きな木を伐り出しただけだから、杉以外の広葉樹もたくさん伸びているし、伐られなかった杉たちは、正円に近い幹ではなく、とても複雑な形をしている。
あの「縄文杉」も、推定寿命が2,100~7,000年と、大変に幅広くなってるんだけど、それはあまりに形が複雑なので、年輪の中心がどこかわからず、数えられないからなんだそうで。 ちなみに「屋久杉」と呼んでいいのは樹齢1,000年以上の樹だけなんだって。すごいよねそれって。
薩摩藩時代からもう100年以上経っているこの森では、その巨大な切り株や運び出せなかった倒木から新しく杉が生えたり、「着生」と言って他の植物が着いて育ったり、さらにそこに苔が生えたりして、大変に味のある様相を呈している。根元に大きなうろができていたり、穴が空いて中を通れるようになっていて「くぐり杉」という名前がついていたりする。 ガイドS氏のポージングで、いろんな樹の写真を撮って行く。
途中「白谷小屋」と言う、以前は宿泊施設だったという建物でトイレ休憩し、そこからちょっと行くと、ジブリの「もののけ姫」のモデルになったと言う「苔むす森」に着く。S氏によると、ここはもともと「もののけの森」と呼ばれていたところに、「もののけ姫の森」という看板を立てたら有名になっちゃったんだそうで、今はその看板も取っ払われてるんだけど、変わらず人気のスポットだ。
だけど「もののけ姫」のスタッフが、映画のためにスケッチしてったのはこの場所だけではなく、この通常のコースを少し外れた所に、小川も流れるより近しい雰囲気の場所があるってことで、帰りに連れて行ってくれた。
「苔むす森」からしばらく行くときつい登りになり、ひーひー言いながら登っていくと、このコースの終着点、標高1,050mの「太鼓岩」に着く。「太鼓岩」は山頂の巨大な花崗岩で、この上に登ると、その向こう側の谷一面に、広葉樹の新緑の黄緑色と、 山桜のピンク色がカーペットのように広がる。なんたる絶景!この山桜はこの時期がベストなんだそうで、それを狙って来たんだけども、この感動は写真じゃ伝わらないだろうなぁ。
んでまたこの日は、曇り時々晴れ時々霰というなかなかに荒れた天候で、とにかく台風のような突風が吹いており、太鼓岩の上にいると、吹き飛ばされそうで怖い。いやぁだけど、これは来た甲斐があったな。S氏も「白谷雲水峡」に来るなら今が最高ですね、と言っていた。
往復約5時間歩いた帰り道、S氏が数年前に広大な土地を安価で手に入れ、家は自分で建てて始めた木工房、「ウッドショップ樹之香」(きのこ)に、最近ウッドデッキを作ったってのが自慢らしく、ぜひ寄って行けと言うので行ってみた。ウッドデッキの向こうには森を挟んで小川が流れ、その音が大変心地よい。その小川までが彼の土地なんだそうで。
このショップ、S氏は木の切り出しや入手と大まかな削り、その後のデザインとか細かな加工は奥さんがやっているそうで、前日に行った「木心里」の割とすぐそばにある(のに全然気づかなかった)んだけど、だいぶ庶民的なお値段で、しかもなかなかかわいいものが並べられている。家族をかたどった小さな置物と、娘用にピアスを購入した。北海道出身で静岡を経由して屋久島まで来て、ガイド業と木工房をやっていると言う、なかなか波乱万丈の人生だ。
ホテルに帰って、海まで降りられそうな道があるのが喫煙室から見えて気になっていたので、行こうよと誘ったんだけど、2人とも疲れて乗り気じゃないので、1人で行ってみたりした。海辺までは出られなかったけど、高さ20mほどの断崖の上まで行けて、なかなかの迫力だった。
4日目は帰りの日。旅に行くたびに、あ~あ、もう帰る日になっちゃったって思うよね。
この日は初日に行った「屋久杉自然館」からさらに山を登っていった、標高1,000~1,300mほどのところにある「ヤクスギランド」と、そこからさらに少し上った場所にある「紀元杉」に行った。
「紀元杉」は、「縄文杉」みたいにすっごい距離を歩かなくても林道のすぐ脇にあり、「縄文杉」ほど古く、太くはないけども、本体がまっすぐ伸びたのが途中で折れ、そこからちょっとだけ枝を出している、そのまっすぐ伸びた太い幹が、少し白っぽく枯れかけた感じになっているところに、数十のいろんな植物が着生し、なんだかものすごくカッコいい(根元からのアップショットが冒頭の写真です)。
初日にポスター買っちゃったから来てみたってとこもあったんだけど、これは観に行った甲斐があったな。ポスターがカッコよかったんだから、そりゃ本物はカッコいいわな。細いうねうねの林道をかなり登った場所にあるのに、「紀元杉」行きのバスなんかが走っていて、ぼくらが行ったすぐ後には、けっこうな観光客が降りてきたりした。
それから林道を少し戻り、「ヤクスギランド」に行く、ここは30分コースから150分コースまで、いくつかの歩道が選べる、自然休養林としてある程度整備された施設だ。50分コースまでは木道や石畳が整備されているんだけど、それ以上になると前日同様の山道に入る。S氏がここに行くなら150分コースがお薦めだと言うので、ホントはもう少し寝坊して50分か80分コースでいいかなと思っていたところが、カミさんが妙に乗り気になっちゃったので、1時間ほど早く起きて150分コースにチャレンジした。
森の感じは「白谷雲水峡」と同様で、途中いくつか、名前の付けられた名物杉がある。この日は安定して天気がよかったので、歩いててとても気持ちよかったな。きれいな葉の裏写真がたくさん撮れた。
ここでも夫婦箸とかいくつか自分用のお土産を買って、それから山を下りて、安房(あんぼう)の集落の海辺にある「きらんくや」というそば屋に、昼の営業時間終了間際に滑り込んでそばを食べ、時間調整でまた別のお土産屋にちょこっと寄ったりしながら、ガソリンを満タンにしてレンタカーを返し、屋久島空港から帰途につく。
鹿児島空港でのトランジット待ちや、帰りのJAL652便の中でも、ずっとこのブログ(先週の記事ね)を書いていたら、あっという間に羽田に着いた。気圧の変化に弱いカミさんが、今回往復4回乗った飛行機で、この羽田着の時だけ、過去何度かあった額の痛みが出ちゃってちょっとかわいそうだったんだけど、夜9時ごろにはほとんどの店が閉まってしまう空港内で、空いている店を探してパスタを食べ、中央環状の長いトンネルを快適に飛ばして、11時近くになって家に帰ってきた。
くたびれて、アキレス腱の痛みが取れるのに3日ほどかかったけど、日本国内でも貴重な森のフィトンチッドを存分に浴びて大変気持ちいい、最高の旅後半になりました。
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