いろいろイベントとかなんじゃかんじゃあったんで、もう10月に入って丸3週になっちゃったけど、9月末日のOHCDの帰り道、嵐迫り時おり突風吹く目白通りで、運転手をしに来てくれたカミさんも好む数少ない女性ボーカリストであるMISIAの、先クールの視聴率No1だったドラマ「義母と母のバラード」のテーマ曲「アイノカタチ~feat.HIDE (GReeeeN)」が、いい曲だよねぇ、って話をした。
カミさんはドラマ観るんでもイケメンが出てるかどうか次第で、女性には基本的に興味ないんだって。まぁ逆にぼくはお気に入りの女優が出てるドラマは観るので、気持ちはわかるけどもね。女性ボーカルも同様で、特に歌唱力がなくて声がストレートにドーンと出る歌い方じゃない人は、もう一聴した瞬間にNGだ。
酒は飲んでるけど別に酔っ払ってもいない、助手席での手持ち無沙汰にスマホをいじり、Google Play Musicでこの曲をかけて、これってあの曲と似てない?とか、いやいや、さすがGReeeeNのHIDE、自分らしさも出しながらMISIAにしか歌えない曲を作るってのがすごいよね、いやいやいや、でも私はあの曲の方がいいなぁとか言いながら、MISIAの他の名曲バラードと聞き較べてみたりした。
綾瀬はるかがヒロインのドラマで、MISIAが主題歌を歌うというと、2009年の大ヒットドラマで、第二期には今時考えられない全編視聴率20%超えを達成した「仁-JIN-」の、第一期の主題歌だった「逢いたくていま」以来だって言うんだけど、あれもいい曲だったよね。
先週の「関ジャム」でユーミンのバックコーラスを務める今井マサキさんが言ってたけど、ボーカリストの立場で見て難しい歌、というテーマで、この曲について、一気に世界観を持って行くMISIAの表現力がもう脱帽だと。「『い~ま~あ~いーたいーー』ってとこで、観客全員が息を飲むわけじゃないですか。それってすごいことですよね。」と。
今日のテーマは曲の構成の話にしようと思っていて、ちょっとここから強引に持って行きますけども、実はこの「逢いたくていま」は、MISIAのバラードの中では比較的珍しく、かなりまっとうな、オーソドックスな構成の曲なんですよね。
なにげなく聴いている曲でも、実際、この構成次第で、相当印象だとか飽きが来る感、刺さり感が変わると言うことを、あまり意識してない方も多いと思うんだけどね。偉そうに言って恐縮ですが、たまにだけども曲を作る立場として、曲の構成ってのは、リズムやメロディーと同じくらい重要な要素として気にするところだし、そもそもドラムなんて楽器をやってると、コピー曲を演るときは、構成って絶対に間違えられない責任感の対象だったりするので、なんかついいろんな曲を、構成はどうなってるんだろう、って観点で聴いてしまう。
前に、「健康」でどうやら定着してくれた「だいじょぶデス」を作ったときに、ブーランが、こういう構成にすればいいじゃん、って鬼の首を取ったように言ってきて、いや、元々そういう構成ですけど、ってんで、もの忘れガンコオヤジばかりで困ったもんなんですわ、って話を書いた。
曲の長さにもよるけども、なるべくすっきりシンプルに、コンパクトにするために、2コ-ラス目ではAメロを半分の長さにするとか、通常は4パターンのサビを2パターンに削ってギターソロに行くとか、そういう初歩テクニックを用いるのは、プロの皆様でもよくあることだと思う。作詞との兼ね合いもあるので、曲作りの上でいろいろと調整が発生しやすいところだ。
ただでさえテンポが遅いバラードは、その中でも、オーディエンスに飽きさせずテンションを上げるために、もちろん楽曲自体の良さや、パフォーマーの表現力も大きいけども、この構成ってヤツが、ものすごくものを言う。そういう視点で見たときに、MISIAのバラードってのは、おお、そう来るか、ってオドロキが多くて、とても勉強になるのよね。
そんな中で、「逢いたくていま」は、 Aメロ(Bメロ的展開含む) →Cメロ(サビ)→Aメロ(同)→サビ→Dメロ(いわゆる大サビ)→サビってことで、サビのパターンは毎回変わらず、転調もなく、大サビ後のサビの前半、バックのオケを抑えてピアノだけにするとかっていうケレンはあるけども、大変にオーソドックスな構成のバラードだ。
それに対し、彼女の最大のヒット曲「Everything」は、実はかなり画期的な構成をしている。Aメロ→Bメロ(「愛しき人よ・・・」)と来て、その後の1コーラス目のCメロ(サビ)が、2コーラス目以降だと「会えばきっと許してしまう・・・」と展開する部分を省いて、2コーラス目以降のサビの後半の、 「優しい嘘ならいらない・・・」に行って、半分の長さであっさりと終わってしまう。
その後2コーラス目のAメロは、1コーラス目の前半部分を省き、「あなたと行きたい あなたと覗いてみたい・・・」という展開を含む後半部分から、Bメロ、Cメロ(サビ)に行って、今度は「会えばきっと・・」に展開、その後間奏があって、転調して、「逢いたくていま」同様の前半バッキングを抑えたフルパターンのCメロに行く。
この、1回目のサビを展開なしに半分で終わらせて、盛り上がりの山を意図的にやや低めに抑えるってのが、少なくともぼくはあまりほかに例を知らない画期的な構成なんですよ。これによって「会えばきっと・・・」に展開する2番以降のサビが、より感動を呼ぶんだよね。
んで、実はこの「Everything」の次のシングル--その間ドリカムとコラボで「I miss you~時を越えて~」という曲を出しているけどソロとしては--として、1年3ヶ月ぶりに、その間レコード会社を移籍したりしながらリリースした、「果てなく続くストーリー」。2002年ソルトレイクオリンピックのNHKテーマソングになったこの曲が、個人的には彼女のバラードの中で一番好きなんだけども、これもかなりトリッキーな構成をしている。
1コーラス目はAメロの後、なんとBメロに行かずにいきなりCメロ(サビ)に行き、「Everything」同様、「心を開き歩きだそう」の部分に展開しない、後半のみパターンであっさり終わる。それから2コーラス目は1コーラス目の半分のAメロの後、Bメロ(「不器用だから・・・」)に展開してから、今度はフルパターンCメロに行く。
それからAメロのコードとリフをなぞった間奏があってBメロに行き、転調してフルパターンのCメロ、さらにもう1回転調して再度フルパターンのCメロと、もうこれでもかとばかりに盛り上げる。「Everything」の1回目のサビ抑制に加え、1コーラス目ではBメロにすら行かない、さらに最後は転調2回というこの構成は、過去少なくとも200曲くらいはドラムのコピーをしていると思われるぼくも、出会ったことがない。
これらの2曲はいずれも作曲は松本俊明さん、編曲は「Everything」が冨田恵一さん、「果てなく続くストーリー」が御大服部良一先生のお孫さんの服部隆之さん。この構成が作曲者と編曲者のどちらの意思によって行われたのかはわからない--多分両者の話し合いの中でのことだと思う--けども、こういう構成に出会うと、プロの仕事ってすげーなーと思う。
最初に書いた「アイノカタチ」に話を戻すけども、この曲はドラマ「義母と母のバラード」放送中盤の8月22日にCDがリリースされ、CDTVのランキングで言うと、その前からダウンロードとかでランクインしていたのが、CDリリース直後に7位、それから少し下がったけども、ドラマが最終回を迎えた翌週の9月29日に最高位の6位を記録するという、タイアップとしてはなかなかの成功例になっている。
その後もランクはなかなか落ちず、今日この後の放送でどうなるかはわかんないけど、先週が11位、ダウンロードランキングの方ではずーっと10位以内でトップにも立つという、近年の『名曲』がたどりがちだと思われるランキング推移となっている。
この曲はミドルテンポで、必ずしもバラードの範疇に入るかどうかは微妙であり、構成もそれほどトリッキーではないけども、2コーラス目ではBメロが1コーラス目の後半のみの半分になっているのと、2コーラス目のサビの後間奏があって、それから例のごとくバッキングを抑えたサビがあり、転調して最後のサビで盛り上げるのだけど、この転調のところで2小節追加していて、高音からDCBと1音ずつ下がる「ずーうっとー」というフレーズが入ってくることで、その盛り上がりをより感動的なものにしている。
ちなみにYou Tubeとかに公開されているのはプロモーション用のショートバージョンで、構成が全然違うので、リンクは貼りませんね。
ドラマは親子愛をテーマにしていて、それを受けてかこの曲では、「アイノカタチ」というタイトルながら、「愛してる」ではなく、「大好きだよ」という言葉を使ってるのもいいよね。子供から親に対して「愛してる」とは言わないからね。曲を聴く限りは幅広く男女愛とも親子愛とも取れるように作っている。
親をやってきた立場で言うと、恋愛よりも子供のことの方が--自分の周りのこととしては記憶に新しいってだけかも知れないけど--、感動的なこと印象的なことが多く、より涙腺には響きがちだからね。ぼくらのような子育て終盤世代や、まさに子育て中の世代にも広くアピールする、その辺がこのドラマはいい狙いだったし、「大好きだよ」というワードがさらに感動を呼ぶんだよね。
この曲の編曲は今をときめく亀田誠治さん。さすが、というべきだと思うけども、こういういい曲の編曲は楽しいだろうなぁ。GReeeeNは相変わらず表には顔を出さず、本業はみんな歯医者さん、映画「キセキ」もAmazon Prime Videoで観たけども、こういう曲を作れるHIDEはすごい才能だし、本業持ちつつこれだけ素晴らしい音楽活動ができてるってのは、うらやましい限りだよなぁ。
てことでちょっとわかりにくかったかも知れませんけど、曲の構成ってもんに注目して音楽を聴いてみるってのも、なかなか面白いものでっせ、って話でした。
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