今日は通常の日記としてのネタ枯渇のため、温めておいた、てか塩漬けにしてあまり温まってないネタを。今年の5月に竹内まりやと山下達郎のシアターライブを観に行った時に、達郎の「さよなら夏の日」の転調2回の破壊力について、またいずれ書く、って書いちゃったのを回収しておこうかと。こういうネタは調査も書くのも大変なのだけど。
とはいえぼくは子供のころエレクトーンをちょっと齧ってただけで、ちゃんとしたキーボード弾きでも作曲家でもないので、以下かなりテキトーかつ行き届かない知識や見解をひけらかすことになると思いますが、間違ってたらどうぞ忌憚なく突っ込んでくださいね。
転調ってのは、バラード系の曲で、終盤盛り上げてより感動を呼ぶために、主として半音とか1音とか高域方向にするのが、現代ポップスにおいてはもっともよく用いられるやり方だ。今日のメインテーマも、その感動をさらに大きなものにするために、複数回の転調を行うケースがあって、これをあざとくなく効果的に行うために、曲の構成のどこにどう持ってくるか、その意外性がかなりモノを言うんだよね、ってことなんだけども、その前にちょっとめんどくさい話を書いておくと・・・
そもそも「転調」の定義ってなにさ、ってのも実は曖昧なところもあり、Wikipediaを見ると「曲中で調を全く違う調に移し替えること」って書いてあるんだけど、例えばユーミンの「恋人がサンタクロース」って曲があるでしょ?
あの曲のサビの「恋人がサンタクロース 本当はサンタクロース」のところ、コード的に言うとD→D→A/C#→Bm7の後、「つむじ風追い越して」の部分って、A→B/A→G#m→C#7に展開するんだけど、これって、本来のこの曲のキーAではなく、Eのキーに属するコード進行であり、これも転調だと言うこともできる。
だけどその後すぐに「恋人がサンタクロース 背の高いサンタクロース」に行くときは、元のキー及びコード展開と同じに戻っているので、これを「全く違う調に移し替えること」と言えるのかね?って話にもなるわけじゃん?ま、もし言えるとすると、A→EですぐまたAに戻るので、このサビ1回だけで2回転調したことになるんだけどね。
同じ「恋人がサンタクロース」でさらに言うと、この曲のイントロはキーで言うとF#マイナーで始まって、AメロからAメジャーになるんだけど、これがいわゆる平行調というやつで、調号は全く変わらない。これは曲中でも頻繁に行われる--例えばBメロの「今夜8時になれば」のとこもF#マイナーになっている--これをも転調と言うかと言うと、最近ではあまり言われることはないように思う。
その他、これは明らかに転調ではあるものの、感動を呼ぶためというよりは単純に、例えば男女ツインボーカルで、交互に歌うような場合で、それぞれの音域に合わせて転調するみたいな場合もある。ちょっと一般曲ですぐに思いつかないから、恥ずかしながらもう30年ほど前に作った、前の会社でやってたバンド向けの自作曲の例を挙げると、このリンクみたいな感じね。
鈴木聖美「ロンリーチャップリン」っぽいのを狙って作ったこの曲は、Aメロ→Bメロと、サビの途中で、D♭(B♭マイナー)とB♭(Gマイナー)という2つのキーを行き来する作りになっている。昔から私、けっこうな転調マニアだったのよね。他の自作曲にも多くあって、女性ボーカルKに、「また転調?好きよねー」ってよく揶揄されていた。
さて、メジャーな曲で、上記のように曲の途中で一部だけ、ってのを除いて転調2回って言うと、もっとあるかも知れないけどぼくが思いつくのは3曲。そのうちの1曲目は、これは「最後に盛り上げて感動を呼ぶ」というよりは、少しでも変化をつけたい意図のように思われるけど、安室奈美恵の「Never End」だ(著作権管理が厳しいのか、YouTubeに本人の音源がないのでリンクは貼りませんね)。
2000年に行われた九州沖縄サミットのテーマ曲として、当時の首相小渕さんに要請されて小室哲哉氏が作った曲だけど、小室さんの曲って、同じコード進行の繰り返しが多くてね。この曲の場合はサビの「Never End Never End」のところで、相対表記で書くとⅥm→Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ(この曲の最初のキーはA♭なので、Fm→D♭→E♭→A♭)のパターンを、延々と繰り返していく。
だからこそ印象に残る、Net DL時代到来前に「サビをいかにキャッチーに作るか」の先駆けをしたような、これぞ小室節って曲作りになっている。歌詞を見れば多くの人がそのサビのメロディーは思い出せるはず。逆に言うとこの曲のAメロ、Bメロって最初に2回ずつ出てくるんだけど、ほとんど思い出せなくない?
で、最後にサビのパターンを8小節×5回くらい繰り返す、その2回目と4回目の頭で、半音ずつ2回転調する。これはもしかしたら、曲の長さが何かの都合であらかじめ規定されていたのに合わせ、なるべく飽きさせないようにした結果なのかな、という気もする。
2曲目はMISIAの「果てなく続くストーリー」。ぼくの大好物のこの曲は、これはもうあからさまに、「いかに盛り上げるか」を狙った転調2回になっている。この曲の構成は全体としてはかなりトリッキーなのだけど、これについては以前に書いたことがあるので、繰り返しになる部分は省くとして、転調のしかたとしては極めてオーソドックスだ。
1回目は、間奏後に2回目のBメロがあり、その終わりにフロアタムの2拍目頭打ち1発のブレークがあり、次のサビから1音分転調。そして2回目は、そのサビの終わりと次のサビの頭に、リタルダンドと追加2小節があり、もう半音転調。
まぁこのリタルダンド+αなんかは、いかにもな感じでかなりあざといとは思うけども、この最後のサビでMISIAが見せる数々のフェイクの説得力と相まって、いいように気持ちを持って行かれる。編曲の服部隆之さんの狙い通りなのだろうけど、敢えてそれに嵌りたいと思えるのよね。サビごとに転調する王道パターンの盛り上げでは、今世紀を代表する曲なんじゃないかな。
最後が冒頭に書いた山下達郎の「さよなら夏の日」(冒頭の写真はYouTube上のこの曲のイメージ映像の一部です)。この曲は「果てなく続く・・」とは逆に、転調のパターンとしては全く王道ではないのだけど、その意外性とタイミングが破壊力につながっている、ある意味天才的な構成の楽曲だと思う。
91年に先行シングルとして発売され、その後アルバム「ARTISAN」に収録されたこの曲は、そもそもAメロもBメロもサビも、非常に美しいメロディーになっている--特に唯一マイナーから入るBメロが、夏の終わり感と相まってものすごく切ない--ところがベースにあって、その上達郎の歌も多重録音コーラスも素晴らしい。ちなみに作詞作曲編曲はおろか、一部打ち込みも含めて全演奏を達郎自身がやっている。
その構成だけど、まず最初にイントロが、ピアノソロ2小節で非常にシンプルな「レドレドシラシラソファソファミーレー」(実際のキーはAなので音で言うとB(シ)から始まるんだけど)のみでAメロに入る。これが伏線になっている。
そして普通にAメロ、Bメロ、サビを2回繰り返し、2回目のサビの後、いわゆる大サビのDメロ(「ごらん最後の虹が出たよ・・・」)に展開。このDメロ部分もAから転調してCのキーになるんだけど、ここまではまぁ違和感のない、バラードの王道とも言える構成なのね。
んでDメロで盛り上げておいて、元のキーAに戻り、いきなり静かに、伏線だったイントロのピアノソロ2小節(ここではシンセベース付き)が間奏として使われるんだけど、その1小節目と2小節目の間に、なんと半音転調するのですね。え、ウソ、って言う意外性。で、戸惑ってるうちにその2小節目の3拍目の裏からドラムのオカズとかピアノのグリッサンドとかが入って、上記の超切ないBメロがガーンとやって来る。
で、半音転調はそのBメロ4小節分だけで、今度は転調用の1小節がこれは王道的に入って、最後のサビはさらに半音転調する、という。結果としてはこれでもか、なんだけど、矢継ぎ早に畳みかけられ引きずり込まれて、涙が出そうになる。この転調の使い方、持って行き方は、破壊力と言わずしてなんと言う、の素晴らしさだと思うですよ。最後のサビを重ねて1回だけ繰り返し、オーラスはまたピアノ+シンベ2小節で終わる回収のしかたも見事。
8月に観に行ったライブもすっごくよかったし、キムタク主演の今クールの事実上No1ドラマの主題歌も、いい曲だしいい声だ。達郎さん、もう「アラコキ」だけど、いつまでも頑張ってほしいなぁ。
てことで転調2回の名曲たち--ぼくの曲はご愛敬ってことで--についてでした。
師走ですな。そろそろ年賀状の準備に入らんとね。
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