先週の「関ジャム」で、「プロが選ぶJ-POPの名アルバム」という企画をやっていた。サブスク時代の今、曲単位でプレイリスト作っちゃったり、ヘタするとCMやドラマ主題歌とかでサビだけフィーチャーされたりということが普通になってると思うけど、ヒャダインが、「アルバムは全体で流れがある1つの作品なんだから、ぜひ通して聴いてほしい」という主張を声高にしていた。
これ絡みの話は何度か書いてるかもしれないけど、また書いてしまいますね。
まぁ確かに、若いリスナーが往年のミュージシャンのことを知りたい、聴いてみようと思った時に、ゲストの鷲見玲奈が言っていたようにベスト盤を聴いてしまうということは、ヒャダインはいやいやそれはいかがなものかと言っていたけど、やむを得ないのかもしれない。我々の年代でも、例えばビートルズを聴き始めたのはもう「Let It Be」が出たかそれから数年経ったかという時期だったので、真のビートルズファンには眉をひそめられるかもしれないけど、赤盤、青盤があれだけ売れたってことだよね。
でも昨今出てくる新人アーティストでも、仮にCDのパッケージは発売しておらず、サブスクのみだったとしても、60分前後、10~十数曲程度のカタマリに対してタイトルをつけ、アートワークをし、「アルバム」という単位で作品をリリースしていると言うのは、やはりその単位での芸術として、その時々で世に問いたいし、受け止めて欲しいと言うことの表れだよね。シングルだけ、というアーティストが出てきてもよさそうなものだけど、今のところぼくの知る限りはそう言う人はいない。もちろんマーケティング的な理由もあるのだろうけど。
我々のようなアマチュアミュージシャンでさえ、てか我々はアラカンのおっさんミュージシャンだから当然かもだし、CDを作ると言うことを目標に据えたんだから当たり前かもだけど、アルバムと言う単位で物を考え、曲ごとのメジャー・マイナー、テンポのアップ・ミドル・スロー、歌詞の内容とかキャッチーさ、インパクト度合いなどに応じて曲順を決め、この曲でまずカマしてやろうとか、この曲はボーナストラックだよねとか、検討してるわけだからね。
その「関ジャム」でもやってたけど、プロであるアーティストは、例えば曲間の長さを調整してインパクトを増したり、途中に短いジングルみたいなものを挟んだり、椎名林檎なんかは曲タイトルの文字数や、英語(カタカナ)か日本語かが、アルバムの真ん中の曲を中心にぴったりシンメトリーになるような遊びをしていたりとか、アルバム全体が1つの作品だからこそできるシカケを、いろいろしてるよね。
番組では特に触れてなかったけど、昔はアナログ盤が前提だったから、そこにさらに「A面」「B面」という要素が加わっていた。面ごとに曲調や歌詞の内容に特性を持たせてそれぞれ「○○面」みたいな形にしたリ、B面の頭だからと、いかにも「また新たに始まる」ように、シングルカットするなら2曲目はこれ、というような曲を持って来たりしていた。
ぼく自身、ちょっと前に超久々にアナログレコードを聴いてみたら、あれ?レコードの片面ってこんなに短かったっけ、レコードをひっくり返して針を落とすことってこんなに面倒だったっけ、って思ったのだけど、それだけB面と言うものの持つ意味が格別だったということだよね。
これも前に書いた気がするものの検索してもたどり着けないのだけど、「関ジャム」ではJ-POPの、という前提だったので触れられなかった、ぼくらが小学校高学年から中学校くらいで洋楽を聴き始めたころに、アルバム全体で見事なコンセプトとストーリーを持っていた作品としてすぐ頭に浮かぶのは、有名なPink Floydの「The Darkside of The Moon」(邦題:「狂気」)かな。
A面が「The Grate Gig In The Sky」という壮大なスキャット曲で終わり、ひっくり返すとB面が、「Money」のイントロの、当時のプログレの真骨頂とも言うべき、インパクトのあるレジスター音のSEで始まると言う。それ以外にもあるフレーズが別の曲の中で繰り返されたりとか、最初の心臓の鼓動音の導入から、最後「Eclipse」の同じフレーズを何度も繰り返し感動を生むやり方とか、これぞまさに全体で1つの芸術作品になっていた。「Money」なんかはシングルカットされてヒットもしたようだけど、アルバム全体を通して聴くと言う選択肢以外ありえない性格のものだった。
Pink Floydの他のアルバムもそうだし、プログレ系は特に、YesにしてもKing CrimsonにしてもCamelにしても、どのアーティストもアルバム全体のコンセプトを明確に持って、それを体現する作品制作が行われてたよね。
まぁでも諸行無常は世の常だから、このサブスク隆盛、パッケージ衰退の時代が続けば、近い将来、ホントにアルバム単位なんてことを無視するアーティストが現れるのかもね。マーケティング上の理由も無論あるだろうけど、EPみたいな、LPより曲が少ない単位での発表が増えてきてるのも、そんな時代の兆しかも知れないし、長さや曲数はもっと自由になって行くのかもしれない。いや、その前にミュージシャンと言う商売自体が、トップクラスを除いて成り立ちにくくなっちゃうのかな。悲しい話だけど。
んで今日は、ついでに最近ぼくがお気に入りで聴いている--ほぼみんなサブスクでだけど--日本の若手中心のアーティストの、幸いまだいずれもアルバムと言う単位で発表している作品たちについても書いておこうかと。ジャケ写はアートワークが素敵なものをピックアップ。
これだけ長く音楽ファンをやってると、昔好きだったアーティストを中心に聴いて、最近のものには疎くなる向きも多いと思うのだけど、ぼくはなるべく新しいアーティストたちも聴いていく主義だ。特にぼくが好きなソウル・R&B系のJ-POPは、昔は見る影もなかったけど、86年に久保田利伸が出てフロンティアとなり、98年にMISIA--去年だけど中国のTV番組でまたすごいパフォーマンスしたらしいね--が、宇多田ヒカル--最近は独特の世界観で、R&Bには括りにくくなってるけど--が出て早20余年、すごくレベルが高くなってきてると思うのでね。
まずは有名どころから行くと、米津玄師に続く天才と既に言われている藤井風の、昨年発表したアルバム「Help Ever Hurt Never」。「関ジャム」でも取り上げられてたけど、augmentやdiminishをサラッと入れ込む独特なコード進行が、ものすごくオシャレだ。それでいて歌詞は岡山弁丸出しと言うギャップも素敵。この人はこれからすごいことになって行くのじゃないかな?
もう1つ、今やビッグネームになりつつあるAwesome City Club、最新アルバムは「Grower」。映画のインスパイアソングとして使われた「勿忘」が、いま有線でかかりまくってるらしいけど、いい曲だよね。男女ツインボーカルと言うのもいいし、ギター他担当のモリシー氏のソロセンスは素晴らしいと思う。アルバム全体も大変クォリティーが高い。こういうのをCity Popって言うんだよね、ってので、無理やり達郎とか大滝さんとかと結び付けて特集やってた某音楽番組のディレクターのセンスは、いただけなかったけどね。
そしてちょっとメジャーになり切れないけど個人的には大好きな向井太一。最新アルバムは「Colorless」だけど、この人はけっこう多作で、しかもどの曲もかなりスッキリと気持ちいいので、だいぶ遡って聴いていて、最近のぼくの中ではもしかしたらNo1かもな。ちょっとクセとかエグ味みたいなものが少なく、引っ掛かりがないのがブレークし切れない要因かもだけど、そのままでいて欲しいなぁ。
それからつい数週前にアルバム「New Gravity」(左写真)を出したNulbarich。バンド形態を採りながら、JQ氏以外はメンバーが固定されていない事実上の1人プロジェクトで、曲調は向井太一よりは癖がありながら、主としてサビが、Nulba節とも言うべき特徴ある美しいメロディーラインを奏でることが多く、それに嵌る人が多いのか、最近はちょっとメジャーになりつつあるのかな?
それから、これ以降はソウル・R&Bというジャンルには当てはまらないかもしれないけど、これまた最近メジャーになってきているVaundyが昨年発表した「strobo」。彼の場合はソウルを中心としながら、ロックあり、ゴリゴリのダンスミュージックありという、自由な感性がよい。まぁ年寄りには少しうるさく感じる曲もあるかも知れないけどね。
そしてこの人はもうかなりのベテランで、先週も含めて「関ジャム」にも何度か出演--冒頭写真右端でピアノを弾いている--しており、名前からはソロミュージシャンだと言うことがわかりにくい大橋トリオ。昔から聴いていたわけではないのだけど、独特のアコースティックな曲調がとてもオシャレで、日曜夕方に放送している「世界遺産」のテーマ曲がこの人の曲だと知ったこともあり、3月に発表した「New World」だけではなく、少し前から追いかけている。「New World」の1曲目「ミルクとシュガー」での上白石萌音とのデュエットもよい。
最後はこれも3月末にニューアルバム「Daily Bop」--先週の「関ジャム」でも取り上げられていた(右写真)--を発表したLucky Kilimanjaro。このバンドは今年に入って、「関ジャム」で昨年の年間ベスト10曲として、忘れたけど誰だかに推されていて知ったのだけど、エレクトロポップと言うのか、電子楽器系の多人数構成でありながら、演ってる音楽は、スネアの音の軽さを始め、音数が最低限に絞られていて軽快で、聴いていてとても心地よい。
しかしまぁ、こうしてお気に入りのアーティストが増えていくと、なかなか追っかけるのも大変になって、サブスクで公開されたことに気づいてプレイリストに加えたとしても、音楽だけをじっくり聴く時間はなく、ある程度長時間聴くのもランニングの時か車を運転してる時くらいしかないため、昔みたいに同じアルバムを何十回もゴリゴリ聴く、みたいなことにはならないのよね。
その結果、結局比較的有名な曲は憶えてるけど、アルバムの構成を全体として捉えてるものはほとんどなかったりして、最初の趣旨とはすっかり矛盾する聴き方になってしまっている。残念なことだけども、これぞサブスク時代の音楽の聴き方ってことなんだろうか。ぼく自身も「毒されて」しまっているよなぁ、と思いながら、そういうこだわりは意外と昔ほどなくて、それはそれでいいんじゃん?って思ってしまっている還暦前の今日この頃でした。
そう言えば昨日「健康」で還暦一番乗りになったブーラン、Happy Birthday!
※冒頭の写真は「テレ朝POST」さんからお借りしました。問題ありましたらご連絡下さい。
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