このネタ、いざ書くとなるとけっこう仕込みに時間がかかって、結局2ヶ月近く暖めることになってしまったのだけど、というのは一応ざっとでもユーミンの楽曲を聴かないと、自分でも忘れてる曲があるかも、ってのでね。
とは言えオリジナルだけで39枚もアルバムを出しているその全曲を聴き直したわけではもちろんない。ぼくが最もよく聴いた70年代末から90年代半ばくらいまでのアルバムの曲たちはほぼ頭に入っているけども、それ以外は記憶が定かじゃないからってことでね。特に97年「Cowgirl Dreamin’」あたり以降は、全て買ってはいるけどそんなに聴き込んでないし、自分で作った年代別の彼女のベストプレイリストからも対象外にしちゃっててね。
ぼくは大学に入ってからユーミンを聴き始め、そのタイミングで発売されていた最新アルバムが名盤「昨晩お会いしましょう」で、そこから遡って78年の「流線形'80」くらいまで、また在学中に発売されたアルバム(84年「No Side」まで)は全てフォローし繰り返し聴いた。
なので彼女のアルバムが最も売れた85年(=社会人になった年)「DA・DI・DA」から95年「KATHMANDU」くらいまでの曲たちを、何となく「最近の曲」という意識で聴いてしまう自分がいて、30年ほどの不思議なタイムパラドックスが、頭の中で起きている。「DA・DI・DA」なんて前に書いたけどカミさんと付き合い始めたその日に発売されたアルバムだからね。どう考えてもおかしな認識矛盾だ。
で、9月ごろにその自分で作った「最近の」プレイリストを聴きながらこのブログを書いていて、改めて「九月の蝉しぐれ」っていい曲だなぁ、と思ったのが今回この記事を書こうと思ったきっかけでして。
てことでテーマとしては「真夏の夜の夢」とか「Hello,My Friend」とか「春よ、来い」といったヒット曲、シングルカット曲ではなく、アルバムの中にひっそりと入っていて、だけどすごくいい曲--メロディーが、だけでなく歌詞だったりコード進行だったりが--で、主としてミドル~スローテンポのものを、ぼくなりに拾ってみよう、ってことで。
そう、ユーミンの曲って、歌詞のよさは皆さん知る所だと思うけども、メロディー展開やそれに伴うコード進行が斬新で、なのにそれを感じさせずに流れの中にうまく組み込まれているものが多くて--前に「恋人はサンタクロース」の転調について書いてるね--、曲を作る立場としてはすごく勉強になるし影響も受けているのよね。
で書いちゃったんで年代順無視して行くと、1曲目がその「九月の蝉しぐれ」。91年「DAWN PURPLE」の最後に入っていた曲だが、もうすぐ終わってしまうせつない季節感と終わってしまった恋、それを未来から諦観と共に振り返り、時が経てば感じ方も変わるという歌詞の構成も素晴らしいし、メロディーももちろん美しい。
んで、この曲のAメロの真ん中辺の、1番の歌詞で言うと「ないと思っていた」の「た」のところでDm/FのキーでいきなりF7というコードをブッこんで来て2小節だけB♭に転調する展開がイイ。それでまた自然にDm/Fに戻るっていうね。Fからみると4度の転調なのでそれほど珍しいことではないのだけど、それを曲が始まったばかりのAメロの中盤に持って来るところが斬新で、ユーミンならではだと思うのですね。
2曲目はちょっと時代を遡って83年「REINCARNATION」に入っていた「心のまま」。この曲は、「私の見た雲は馬の形 あなた何に見えた 言葉にしてる間にちぎれていく それは愛に似てる」という歌詞が個人的に大好きで、学生時代に組んでいたユーミンのコピーバンドでやったのを、先輩Sさんがぜひもう一度聴きたいというので、学生時代のサークル「音感」のOBライブ「Onkan Home Comming Day」が初めて行われた2011年に、「Nisshie's Angels」というバンドを組んでやった。
このライブのことはその時に書いたけど、この曲はまぁ、コード進行は素直で特に変わったところもない、(多分)松原正樹さんのギターが素晴らしい良曲なんだけど、この手数の超少ないスローテンポってのが、ドラマーにとっては一番難しいのですよ。当時もいろいろと反省してますなぁ。
3曲目はこれもまた前に書いた「心ほどいて」。89年「LOVE WARS」に入っていたこの曲は、「そしてヴェールを上げて彼と向かい合う時」という冒頭の歌詞で聴く人すべてにブアッと情景を想起させる掴みが素晴らしいのだが、歌詞の状況の解釈についてカミさんと議論していたところ、後日ホイチョイ映画の3作目「波の数だけ抱きしめて」の挿入歌として使われていたことに気づき、あの映画の内容がまさにこの歌詞の一番の解釈じゃんということになった、と前に書いた。
この曲のことはその時に詳しく書いてるので再記はしないけど、今見たらこの曲の「波の数だけ・・・」の映像を使ったPVが、当時YouTubeに上がっていたのがリンク切れになっちゃってるね。著作権の関係だって。なので上記のリンクはユーミン自身のライブ映像。惜しいなぁ。20歳の中山美穂のウェディングドレス姿、ホントに美しかったのに。
4曲目は86年「ALARM à la mode」に入っていた「Autumn Park」。美しいエレピの音が印象的なこの曲は、コード進行的には特に変わったところはないし、構成もほぼオーソドックスなのだけど、2コーラス目の後大サビに展開する頭が、2コーラス目のサビの最後の1小節を削って入っていて、大サビのインパクトをより強くしている。ユーミンだけじゃなく他のミュージシャンもまぁまぁやることだけども、なんか彼女がやると、こういう展開の元祖は彼女なんだと自然に思わされちゃう感じがして、これぞ大御所!だよね。
「あなたに会えなくなる定めは思いつかない どうしてもどうしても今私には思いつかない」という、彼女の歌詞としては多分珍しい繰り返しで、そのことを強く印象付ける手法もとても効果的だ。ぼく自身も歌詞のこの部分が最も記憶に刻まれているし、この歌詞を見るとメロディーをすっと思い出せる。いやいや、大変美しくオーソドックスなバラードですな。
5曲目は90年「天国のドア」に入ってた「残暑」。これもまぁオーソドックスな造りで、大サビもなくバラードと言うよりミドル~ローテンポの小品という感じなのだけど、Aメロの、何て言うのかな、語彙力がないのだがクラシックを想起させるような少しレトロなメロディーラインが印象的。
歌詞もまぁ地味と言うか、夏の終わりに散歩していて、この季節に恋人と別れたんだなぁと思い出して季節を知る、そういう季節感を与えてくれてありがとうといつか伝えたい、という内容で、それほどインパクトはないが、きれいないい曲ですよね。
コード進行がインパクトあった曲で言うと、まぁこれは「名曲」というほどではないかもしれないが、92年「TEARS AND REASONS」に入っていた「Misty China Town」。この曲のAメロのコード進行が、まぁ言ってしまえば「関ジャム」でよく言われている「Just The Two of Us進行」--グローバー・ワシントン・ジュニアの同名の名曲で使われ、その後いろんな曲で真似られたコード進行--なのだけど、それをAメロで使い、かつAメロの中でFからB♭に転調して同じコード進行で追い打ちをかけるって言うね。
この進行の中に出てくる、Gm7→C7→Fという展開が、この曲の場合はキーがFだけども、Cのキーで、相対表記するとキーⅠに対してⅤm7→Ⅰ7→Ⅳ(またはⅡm7)という展開が、ワタクシ大好物でしてね。いろんな曲で使われているけど、個人的には近年「健康」の曲ばかり作ってるんであまり使ってないなぁ。
2003年「Wings of Winter, Shades of Summer」に入っていた「雪月花」も名曲だけども、これはシングルカットもされているようなので飛ばして、最後6曲目は2006年「A Girl In Summer」に入っていた「Forgiveness」だな。
これは今回ぼくの感じる「最近」よりももっと最近の曲たちをサルベージして、あ、こんなのもあったわ、いい曲じゃんこれ、ってなったんだけど、Aメロの、1コーラス目は後半の「風に向かって やさしくよりそって」のところで得意の短小節転調をしていて、前半の「わかるあいだに 仲直りしようよ」の普通の展開との対比が素敵。2コーラス目は恐らく構成上--冗長になりすぎないように--この後半の展開のみになってるけど、前半の展開をもう1回やりたい気持ちもあったんじゃないかなぁ。勝手な想像ですが。
この曲はハウス「北海道シチュー」のCMで使われたようだが、ユーミンにしてはわりとストレートな応援ソング的な歌詞の内容で、サビはまぁ普通に感動的な展開とメロディーラインなんだけど、冒頭の「ゆるし合うほほえみは」「信じ合うまなざしは」のところのアウフタクトと1拍削ったような譜割りが特徴的で、カラオケとかで歌おうと思うとリズムが取りにくいのかもね。いやいや、いい曲ですね。
てことでユーミンの隠れた名曲たちを拾ってみました。いやぁこの手の記事は事前調査もそうだけど書くのも--あっちこっちのサイトを観ながら、聴きながら、弾きながら、ってこともあって--時間がかかる。書くだけでほぼ半日仕事になっちまいました。とりあえず写真は、昨年発売されたユーミンの50周年記念ベストアルバムのジャケットにしときますね。もっとも今回ぼくが挙げた曲でこのベストに収録されているのは「Forgiveness」だけだけどね。
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