恥ずかしながら初めて、村上春樹の出世作「ノルウェイの森」を読んでみた。「話を聞かない男、地図を読めない女」の時にも書いたように、どうにもおいら、流行ってるときのベストセラーって読みたくなくて、すっかり過去のものになってから読むひねくれ者だ。
村上春樹はタイトルは忘れたけど前に別の小説を読んだことがあって、石田衣良なんかを読み慣れた眼には、こりゃまたずいぶんと文学的で格調高く、気合い入れないと読めない代物だな、と言う印象だったんだけど、この「ノルウェイの森」は、なんだか内容の重さの割にはスッと読める、なかなか面白い小説でした。こりゃベストセラーにもなるわな、って感じ?
本は基本的に電車の中でしか読まず、しかも行きの電車では毎日熟睡しているので、帰りのみ、1日約40分間だ。なので大体1週間で1冊くらいがせいいっぱいのペースなのだけど、この「ノルウェイの森」は、久々に家でも読んだりして、上下2巻を1週間ちょっとで読んでしまった。
この本で印象的なのは、セックスおよびそれに近しい男女の交歓の描写と、主要登場人物である3人の女性の、1969年、学生運動真っ盛りの時代背景を考えると相当に先進的な、あからさま、という表現が似合うほど、それらについて普通に口に出してコミュニケートする姿だ。
「ノルウェイの森」っていうのはもちろん、ビートルズの「Rubber Soul」に入っている有名な曲なんだけど、ぼくはそれほどビートルズっていうのは意識的に聴かなかったし、アルバムも実は1枚も持ってない。教養程度に「イエローサブマリン」とか「Yah Yah Yah」のビデオは観てたり、ビートルズ好きのブーランに誘われて六本木のビートルズコピーバンドが毎晩出演するパブに行ったりしたくらいで、ひねくれ者としては同時代のアメリカのフォークの雄、Simon&Garfunkelを中心に聴いていたクチだったんだけど、タイトルだけでは想起できなかったビートルズの原曲「Norwegian Wood」をYouTubeで探してみたら、最初のギターとシタールのイントロだけで、ああこの曲かって言うくらいには、基礎教養はあった。
ビートルズの歌詞は、難解だったり、いろんな解釈が存在したり、背景にメンバー間の人間関係があったりと、なかなか趣深いのだけど、この「ノルウェイの森」も、内田久美子さんと言う方の翻訳は誤訳だというのが定説となっているようだ。
歌詞の内容は、女性をナンパしてその家に行き、夜中の2時までワインを飲んで語り合ったのに、もう寝る時間だと言って彼女は寝てしまった。しかたなく自分は風呂場で寝たが、翌朝起きたら彼女はもう出かけていなかった、という、およそ「ノルウェイの森」という言葉から想起される静寂、フィトンチッドの香り、心洗われるような爽冷な空気などとはほど遠いものだ。
そもそも「Norwegian Wood」の"Wood"は、単数形でも「森」という意味は成すらしいんだけど、ポールマッカートニーが語ったところによれば、これが表すのは、彼女の家の内装がノルウェイ製の(安物の)木材でできたものだっていうことで、つまり「ノルウェイの木」あるいは「木材」と訳すのが正しい、というのだ。
また、「Norwegian Wood」というのは、「Knowing she would」の発音に近しいジョンレノンの言わばダジャレで、つまり「Isn't it good, Norwegian wood」というのは、「彼女がその気だ(=やりたい)ってわかってるって、素敵なことだろ」という意味だという、とてもセクシーな解釈もある。
村上春樹さんはこのタイトルは、もとは実は別のをつけようとしていたんだけど、奥さんに相談したら、これでいいんじゃない?と言われこれに決めた、ということらしいけど、これらの解釈についてはもちろん知っていたはず。
だとすると、そのセクシーな解釈になぞらえた、さっき書いたこの小説全体のセクシーな描写と、一方で、直子と言ういろいろとワケありの彼女が、結局は自殺するつもりであるとわかっていたはずなのに、それを止められなかった、という、この小説のテーマのひとつの柱である"後悔"を意味する「Knowing she would」と、両方の意味を備えた、深いタイトルだということを言っている方もいる。
いやいや、なかなかミステリアスですな。
さて、バレンタインデーは既に終わったはずなのに、娘は昨日今日とずっと、「友チョコ」「自分チョコ」のために、チョコレートを作りクッキーを焼いていた。我が家のリビング・ダイニングには甘いにおいが漂う。そのために父は、今週も娘を送りに行った道すがら、ロヂャースで電動かくはん器を買ってきたり、少しは協力したのに、余ったらお父さんにもあげる、だって。「友チョコ」なんてお菓子業界の販促陰謀じゃないの?
それから今日は、雛人形を飾った。娘の父としては、嫁き遅れになっても構わないからと、例年3月末くらいまでは出しっぱなしだったんだけど、最近は本人が気にして、早めに出してよと言うので、しかたなくね。
昨日を中心にこの週末、気持ち悪いくらい暖かかったけど、明日からはまた結構冷えるらしい。そんな異常気象よりも、こういう季節の行事の方が、春を感じさせてくれるってのも、不思議なもんだね。
(追記です)
たまたまこの記事を書いた翌日の今日、村上春樹さんが「エルサレム賞」の
授賞式で相当思いきった演説をしているニュースが流れましたね。
http://www.oita-press.co.jp/worldDetail/2009/02/2009021601000180.html
全文見た訳ではないので何とも言えないところもありますが、上記サイトの
要旨を見る限り、これはかなりカッコイイと言ってもよさそうですね。敬服。
投稿情報: Tacovo | 2009/02/17 00:34